「公衆衛生情報」 日本公衆衛生協会 Vol.31 No.6 2001年6月

元看護婦が在宅ケア家族をサポート

 訪問ボランティアナースの会「キャンナス」

介護や看護疲れの家族をサポートしたい、と家庭に入った元看護婦たちを集めて在宅ケアを支援しているのが
訪問ボランティアナースの会「キャンナス」です。介護保険スタートを機に訪問看護・介護サービス会社「ナースケア」も設立し、
二足のわらじで奮闘する代表の菅原由美さんにこれまでの活動についてうかがいました

「病院や医者にこんなにものをいえないのか」

 介護で疲れている人に休める時間をもたせてあげたい、というのがキャンナスの出発点です。菅原さんは結婚後、三人の子育て、
夫がはじめた会社経営の手伝い、家族の介護と多忙な日々を送っていました。夫の祖母、父、母などの介護を通して介護の
大変さを実感、病院でのターミナルケアのあり方に疑問を感じていました。できるかぎり自宅に連れ帰り、自分で介護しました。
大学病院にお世話になった母が亡くなり、解剖したいといわれたとき、夫と父は断れず、菅原さんがかわりに断り連れ帰ったこともあります。

 「医者との交渉が下手で、病院とか医者にこんなにものをいえないのか。家族を代弁できればいいし、力になりたい。
そのために地域に眠っている元看護婦を集めてみたいと思いました」。

 阪神・淡路大震災がおきたとき、国連NGOのAMADA(アジア医師連絡協議会)の医療ボランティアとして現地にかけつけ、
旧ユーゴスラビアでも活躍。ボランティア活動をするなかで、元看護婦を集めて介護疲れに苦しむ家族をサポートしたいという思いは強まりました。
こうした考えを理解し、支援してくれる医師もいました。「自分の思いは人に語りなさい。そうすれば賛同してくれる人が必ず集まってくるよ」
という助言に、菅原さんはマスコミ各社に「看護婦を集めたい」と自分の思いを素直に伝え、記事にしてもらいました。

 1997年に二人ではじめた組織は、現在全国に5支部になり、登録者は200人を超えました。元看護婦やヘルパーが病院への
送迎や外出援助、子育て支援などをサポートします。利用者とサービス提供者が登録し、サービスチケットを購入した利用者がうけた
サービスに応じてチケットをサービス提供者に渡し、提供者は一定額になると現金でうけとれるうというシステムです。

 介護保険スタートを機に、看護婦による介護専門会社「ナースケア」も設立。営利と非営利の部分を分け、介護保険の給付金額で
十分なサービスがうけられない場合、キャンナスのボランティアで柔軟に対応しています。

利用者は医療的な見方をしてくれることに安心感

 介護保険がスタートするまえからキャンナスのサービスを利用しているIさんは、要介護5の母親を自宅で看ていますが、
「ヘルパーはレベルに差がありすぎる。看護婦は医療的なものの見方ができるので助かる。何があっても決して表情に出さないので
ホッとします」とプロの仕事ぶりを信頼しています。

 菅原さんは「意思の指示がないと違法行為になってしまう。最初は保健所や看護婦からもたたかれました。
でも、いまはやってきたことがまちがっていないと思います。在宅ケアには金銭、精神、肉体のどれか一つが欠けても家族が倒れてしまいます。
それを支えたい。これからはナースの目でみられるヘルパーがもっともっと必要になります」といいます。

 在宅医療のメーリングリスト(ML)を使った情報交換が菅原さんの大きな武器。難病や処置などわからないとき
質問を投げかけると、全国の医師たちがさまざまな立場から適切なアドバイスを返してくれます。

保健婦はプロの視点でケアマネを応援してほしい

 在宅ホスピスが注目されていますが、菅原さんは「本当は家で家族に見守られながら死なせてあげたい。
家族が看取ったほうがいいし、スタッフも家族と一緒にがんばれます。でもそのためには連携してくれる医者が必要。
地域に医者を交えたネットワークをつくりたい。将来、看護婦である私たちが医者を雇うのが夢です」と力強く語ります。

 ボランティア組織の代表として、経営者・ケアマネジャーとして活躍してきた菅原さんが保健婦にも一言。
「ケアマネは介護保険についてかなり知っていますが、利用者が本来使える地域のサービスを知らない人もいます。
保健婦はそうした情報をたくさんもっているし、難病や障害者のノウハウ・症例をもっているプロです。ケアマネの情報連絡会などに
自ら積極的に参加して、ケアマネからもっと勉強する姿勢が必要では」。

 今後は営利企業である「ナースケア」を黒字化してえ、その分キャンナスの利用負担額をすくなくして、障害者を持つ家族や
子育てに追われる家族などが利用しやすいようにするつもりです。菅原さんは、知的障害児3人の里親もしています。
お年寄りだけでなく、次代をになう子供をしっかり育てたいという思いが強く、お年寄りと子供たち、そして看護のプロである
看護婦による新たなとりくみにもチャレンジしたいといいます。

 キャンナスは、マスコミを上手に利用することで名前が知られ、多くの賛同者が集まり、活動の輪が広がってきました。
介護保険施行後は、ナースケアの経営に力を入れていましたが、これからもボランティア組織であるキャンナスの活動を続けていきます。
現在、医者を交えたネットワークづくりも着々とすすめています。在宅で介護したいという家族を看護のプロの視点で支える
活動は今後ますます重要になるでしょう。